公開:2023年12月11日

エキスパート
インタビュー

リウマチの治療やケアについて
専門医にお話を伺います。

公開:2023年12月11日

診療ガイドラインとは〜作成手順とガイドラインを活かした診療について〜

日本の関節リウマチ診療ガイドラインは日本リウマチ財団より1997年に初めて発行されました。その後改訂を重ね、日本リウマチ学会より2021年に最新版『関節リウマチ診療ガイドライン2020』が発行されました。診療ガイドラインとはどのようなもので、診療にどのように生かされるのか、京都府⽴医科⼤学大学院医学研究科免疫内科学教室で病院教授を務められ、日本リウマチ学会ガイドライン委員会RA治療薬ガイドライン小委員副委員長でおられる川人 豊先生に解説していただきました。

(取材日時:2023年5月26日 取材場所:京都ガーデンパレス) 川人豊先生1

京都府⽴医科⼤学 大学院医学研究科
免疫内科学教室 病院教授
川人 豊 先生
(取材日時:2023年5月26日 取材場所:京都ガーデンパレス)

⽬標達成に向けた治療(T2T)

関節リウマチの治療でいちばん重要なことは、早期の診断と適切な治療です。早期に適切な治療を行うことで関節の破壊が抑制されて、機能を保つことができます。関節痛などの症状が抑えられた状態を「寛解」と呼び、寛解を目指して行う治療を、「目標に向けた治療(Treat to Target:T2T)」といいます。T2Tは世界共通の概念です。

T2Tは、患者さんと医師が一緒に進めていくことが基本です。患者さんも自分の病気や治療法について知らなければなりません。そのためには、医師による十分な支援が必要になります。患者さんの理解を促すためにも、ときには看護師なども加わって「治療にはこんな選択肢があるけれども、あなたの場合、生活背景、年齢、病気の状態や合併症がこのような状態なので、第一選択肢はこれになります」という説明を丁寧に行っていきます。このような支援を受けながら、患者さんは自分自身で治療を選択する(意思決定する)のです。

これら支援を、「共有意思決定支援(Shared Decision Making:SDM)」といいます。SDMにより、患者さんと医師が同じ目標に向かっていくことが可能になります。関節リウマチの診療ガイドラインには、このSDMの概念がしっかりと入っています。

川人豊先生2

『関節リウマチ診療ガイドライン2020』改訂ポイント

前回2014年の改訂以後も、多くの新薬が登場しました。2020年の改訂のポイントの1つが、新たな薬物治療アルゴリズムを作ったことです。薬物治療アルゴリズムとは、症状や治療目標の達成具合に応じて使用する薬剤の順番を示したもので、治療薬を有効に使うための指針です。診断後最初に使うべき薬剤を示し、治療開始6ケ月で症状が改善しない場合は薬剤の変更を検討することを推奨しています。とくに関節の破壊が速く進むタイプの場合は、3カ月で治療効果をきちんと見極め、次の段階の薬剤を使うことが大切です。

また、成人移行期を迎えた若年性特発性関節炎の患者さんの支援方法や、若い女性患者さんが妊娠・出産を望んだときに使える薬剤の解説、高齢発症の患者さんの治療など、ライフステージ別の治療について記述を加えました。

もう1つ、非薬物治療・外科的治療のアルゴリズムの作成も2020年の改定では重要なポイントです。関節リウマチの治療は、「基礎療法(患者教育)」「薬物療法」「手術療法」「リハビリテーション療法」を4本柱としています。日本では古くから整形外科医がリウマチ専門医として治療を担い、手術を行うタイミングの見極めや、手術のメリット・デメリットに関する知見が積み重ねられてきました。関節内注射や装具療法、リハビリテーションなど薬剤以外の治療も積極的に行われ、これらを組み合わせたトータルケアで腫れや痛みがやわらぎ、動けるようになる患者さんは少なくありません。非薬物治療・外科的治療のアルゴリズムを関節リウマチの診療ガイドラインに掲載したのは、世界で日本が初めてです。

次回の改訂では、患者さんにT2Tをよく知ってもらうための基礎療法(患者教育)や、安心して妊娠・出産するための薬物治療、高齢患者さんの治療などをさらに掘り下げたいと思っています。

関節リウマチとうまく付き合っていくために

患者さんのなかには、関節リウマチが治らない病気だと知って悲観し、診察のときに涙を流す方もいます。女性の場合は妊娠・出産に大きな不安を抱く方もいらっしゃいます。しかし、T2Tを行うことで多くの患者さんは寛解に達します。腫れや痛みのない状態を保ち、関節リウマチを持っていない人と同じように生活し、仕事をしながら人生を歩んでいくことができるのです。薬物治療の効果が得られにくい患者さんも多少は見受けられますが、トータルケアで症状が軽減する可能性は十分にあります。

診断が遅れたり、薬物治療の副作用を心配しすぎて治療をためらっているうちに、関節の破壊が進んでしまうことほど残念なことはありません。関節リウマチの治療の進歩は目覚ましく、日本では専門医が増え、世界に誇れる診療ガイドラインもあります。関節の痛みが気になる方は早めにリウマチ専門医を受診し、医師と一緒にT2Tに取り組み、寛解を目指しましょう。

1 2